造園工事会社が湘南ベルマーレのピッチを支える!! グラウンドキーパーの仕事【趣味・スポーツ × 建設業】

神奈川県平塚市にある『Shonan BMW スタジアム平塚』は、先日J2優勝、J1昇格を決めた(取材を行ったのは2019年11月)プロサッカーチーム『湘南ベルマーレ』のホームスタジアムだ。

スタジアムピッチの管理はサッカーチームの職員や自治体などが管理をしているイメージがあるが、湘南ベルマーレのピッチはそうではない。民間の造園事業者である『湘南造園株式会社』(神奈川県平塚市)が手入れを行っている。

なぜ造園事業者がプロサッカーチームと関わりを持つようになったのだろうか?

2016年より同スタジアムのヘッドグラウンドキーパーを務める佐藤光氏に話を伺うべく、11月19日(日)、J2リーグ最終節・湘南ベルマーレ vs FC町田ゼルビアの試合が行われるShonan BMW スタジアム平塚へと足を運んだ。

そこで、同社と湘南ベルマーレとの関係、グラウンドキーパーの仕事について話を伺った。

佐藤 光(さとうひかる)

1980年10月生まれ、神奈川県出身。CMを手がける制作会社や工場勤務などを経て、2009年に湘南造園株式会社へ入社。サブグラウンドキーパーとして『Shonan BMW スタジアム平塚』(当時は平塚競技場)、『馬入ふれあい公園サッカー場』(神奈川県平塚市/湘南ベルマーレの練習場)、『麻生グラウンド』(神奈川県川崎市)を担当。2016年、Shonan BMW スタジアム平塚のヘッドグラウンドキーパーに就任した。

20年のあいだに培った「信頼」と「実績」

湘南造園株式会社は造園事業、園芸事業、石材・お墓事業、霊園開発、芝生整備事業(グリーンターフプロジェクト)を行う、創業90年を超える老舗造園事業者だ。

今回取材を行った芝生整備事業は、小学校の校庭、ゴルフ場、野球場、ラグビー場、『川崎フロンターレ』の練習場である『麻生グラウンド』(神奈川県川崎市)などの管理に携わっている。

なかでも湘南ベルマーレとは設立当初から親交が深く、Shonan BMW スタジアム平塚はもちろん、練習場の馬入ふれあい公園サッカー場の管理も行う。

Shonan BMW スタジアム平塚は、今でこそ湘南ベルマーレのホームグラウンドとして認知されているが、もともとは平塚市が運営を行うグラウンド。

Jリーグ加入当初は芝生の水撒きを行うスプリンクラーが設置されていないなど、設備が充実していなかったそうで「“管理がすごく大変だった”と聞いています」と佐藤さんは言う。

しかしそうした状況から、同社は2006年に『Jリーグベストピッチ賞』を受賞するなど、輝かしい実績を残してチームとの信頼を築き上げてきた。

「今では監督ともやりとりができるので、チーム方針に合わせたピッチ作りができています」

グラウンドキーパーの敵は自然!?

試合当日もハーフタイム中などに、プレーでできた凹みを補修する作業を行う

もともと植物好きで、湘南ベルマーレのサポーターだった佐藤氏は、入社当時から「グラウンドキーパーは天職だと感じていた」と振り返る。しかし、いざ仕事が始まるとイメージとは真逆の仕事で驚いたそうだ。

「1年中同じ作業をしていると思っていましたが、天候に左右されることばかりです。そのため、日によって作業内容は大きく変わります」

たとえば、取材当日でもあったホーム最終戦。前日に雨に降られたものの、天気は良好。こうした状況ひとつとっても、作業内容は変わるそうだ。

「昨日はライン引きをする予定だったのに、雨でできませんでした。夕方にはやみましたが、ピッチが濡れていると芝も刈りにくいし、ライン引きも難しい。

しかし、翌日の天気予報を見ると“朝から晴れ”で“風速7メートル”となっており、朝露もないだろうと予測。あえて昨日はライン引きや芝刈りなどの作業をせず、今朝決行することにしました」

天気はどうすることもできないし、ピッチ管理をする上でもっとも苦労する部分か……と思いきや、意外にも「季節や天気に従って準備をしているだけなので、それが当たり前になっていますね」という答え。

「前日に何種類もの天気アプリを併用して調べますが、それでも天気は変わるかもしれない。だけど、それに従うしかありません。確かに自分の思い通りの天気になってくれれば良いですが、そうもいきませんからね。この仕事をしている限り、天気に振り回され続けますよ」

そう言って、佐藤氏は苦笑する。

J2優勝・J1昇格がかかった大一番でまさかのトラブル

天候不良には迅速に対応するものの、試合直前や試合中の台風や大雨となると、どうすることもできないそうだ。特に記憶に残っているのが、今季J2優勝がかかった第39節・ファジアーノ岡山戦(2017年10月29日)とのこと。直前に台風21号によって練習場である馬入ふれあい公園サッカー場が水没してしまった。

「ボランティアのおかげでグラウンド内に溜まった泥などは除去できました。しかし芝生の修復が間に合わず、湘南ベルマーレの選手が練習できなくなってしまったのです。

そこで、優勝がかかった大事な試合の直前ということもあってShonan BMW スタジアム平塚で練習することになりました。試合が続いた後に、今回のイレギュラーの練習……。ピッチの状態は正直良くありませんでした」

満足いく手入れができない状態で迎えた大一番。試合前にポツポツと降っていた雨が、キックオフと同時に大雨に変わってしまう。佐藤氏は当時を振り返り、「サブグラウンドキーパー時代を含めて5年間スタジアムを見ていますが、ピッチの状態はこれまでで最悪でした」と振り返った。

「あそこまでピッチに水が溜まることはなかったので、すごく悔しいです。水たまりができたのは、台風や大雨で芝生下の砂にまで水分が含まれていたことが原因でした。私たちができることは何もありませんでしたね」

無事に優勝は決まったものの、まだ最終節のホームゲーム(2017年11月19日)は残っている。次の試合までにピッチコンディションを戻さなければならなかった。

「大学サッカーの試合もあったので、ピッチ管理の予定をすべて組み直して最終戦に間に合わせました。ここ数週間で見違えたと自負しています」と佐藤氏。我々が訪れたこの最終節では、冬場とは思えないほど真緑の芝生でピッチが輝いていた。

Shonan BMW スタジアム平塚のピッチは夏芝と冬芝を併用している。ピッチに傷ができても埋められるように、夏芝は横へ匍匐(ほふく)するように生育しているが、寒い時期に期待はできない。こうした状況を鑑みて、佐藤氏は最終戦に向けてこれまでしたことのなかった大胆な作業を行った。

「選手が最も密集するゴールエリア付近など、状態が特に悪い1,000ヵ所ほどに、スタジアム近くで保管している補植用の芝生を持ってきて植えました。この時期としては異例の多さといえます」

さらに佐藤氏はピッチに手を加える。冬芝は条件が良ければ4日ほどで発芽する。試合の数日前に冬芝の種を蒔いてはいたものの、当時は気温が低く、発芽までに10日間ほどかかるだろうと予想。

そこで保温性の高い養生シートで発芽の時期を人工的に早め、みごと最終戦に間に合わせた。まさにプロの意地である。

試合中に気になる選手の「顔」

庭の芝生を管理したことがある人ならお分かりだろうが、芝生を1年中緑に保つのは非常に難しいことだ。佐藤氏も「当然難しいですよ」と大きく頷く。

「ピッチを夏芝だけにしておくと葉の色がだんだん落ちて、冬には真っ茶色になってしまいます。そこで、鮮やかな緑が楽しめる冬芝の種を9月中旬から10月上旬に蒔いて緑をキープします。

すると今度は当然、冬芝は夏に衰退してしまうので、夏前に夏芝をどんどん被覆させなければなりません。春先からは冬芝の育成が良いので、密度を高めていくため、すき刈りで密度を落としたりします。

また、刈高を低くして刈り込むことでストレスを与え、冬芝の下に隠れている夏芝に光を与えて芽吹きやすくします」

佐藤氏は、「選手の一生に関わる足元を支えている」ということを常に胸に刻んで仕事を行っている。ひとつでもピッチに不陸(平らでない箇所)があるとミスに繋がるかもしれないし、ケガをさせてしまうかもしれない。

そのリスクを伴っているため、特に試合中は、“選手の顔の向き”が気になるという。

ピッチの補修作業を行うスタッフのユニフォームには「48」(しば)の背番号

「選手はパスを受けるときに顔を上げて次のプレーに入るのが普通ですが、ピッチがボコボコだと怖がって、ギリギリまで足元を見てしまう。だから、選手の顔が常に上がった状態でプレーしているのを見ると安心します」

ハーフタイム中はピッチに出向いて、ギリギリまで補修作業を行う。佐藤氏を含めた5人でピッチを修復する。これもプレーの質を落とさないための作業のひとつだ。

「凹んだ箇所を起こしてあげて、それでも平らにならないところには砂を蒔く。その他にも、スパイクで削れてしまったカスも回収します。見栄えも大事ですからね。ちなみに、不陸を残したままだと翌日うまく芝生を刈れないので、試合終了後もおおまかに補修をします」

ピッチトラブルゼロで湘南ベルマーレが勝利するのがベスト

「同じ年齢ということもあり、中村憲剛選手と仲良くしていました。ある日、芝生の長さが気になったので、練習後に芝生を1ミリ短く刈ったことがありました。すると翌日、憲剛が練習をしていると僕に“あれ? 芝生短くした?”って言ってきたのです。

驚く僕に憲剛は“麻生は俺の方が長いからね(笑)”って。フロンターレの中心選手の彼が、選手のなかでもっとも芝生を気にしていたことが分かるエピソードです」

ほどなくしてShonan BMW スタジアム平塚でヘッドグラウンドキーパーとして働くことが決まった佐藤氏。正直、ヘッドになることを不安に思っていたそうなのだが、「光ならできるよ」と中村選手が背中を押してくれたそう。

佐藤氏は「彼の言葉があったから決心がついた」と誇らしげに語ってくれた。

Shonan BMW スタジアム平塚に就任して今年で2年目。昨シーズンについては「サブグラウンドキーパー時代にこのスタジアムに携わったこともあったので、このピッチの特徴は知っていたのですが、納得いかない部分もあった」と振り返る。

佐藤氏曰く、「湘南ベルマーレのサッカーは“走るサッカー”を主体としているため、芝生に足が取られないように短く刈り込んだ方が良い」とのこと。

実際、今シーズンは夏芝が育ちすぎたことがあったので、一度芝がなくなるほど短く刈り込んだそうだ。そうしてイチから芝生を生育することで、2週間後の次の試合には思い通りのピッチを作り上げることに成功した。

このように今まで培った経験をピッチ作りに生かしている佐藤氏。最後にこの仕事で大切なことを聞いた。

「思考力、決断力、実行力です。まず朝一番に芝生の状態を見て“考える”、どんな作業をするのか“決断する”、そして“実行する”……の繰り返しです。それが何のトラブルもない最高の芝生を生み出すための唯一の方法ですね。

さらにその作業をすることで、湘南ベルマーレの勝利に貢献できるなら、こんなに嬉しいことはありません」

晴れてJ1という華やかな舞台に返り咲いた湘南ベルマーレ。その足元を支えていたのが私たち建設業界に不可欠な「造園業」の面々だったことに驚きを隠せない。

佐藤氏から語られるコメントのひとつひとつは建設業界とは遠い世界の内容でありながら、しかし確実に造園の世界で培われたノウハウが下地となっていることを知った。こんなシーンをもっと多くの人に知っていってもらいたいと思う。

取材協力=湘南造園株式会社株式会社湘南ベルマーレ、平塚市
取材・文=浜瀬将樹
撮影=佐賀山敏行

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