親方のパワハラに東日本大震災。設備工事職人が乗り越えた波乱万丈なキャリア

壮絶なキャリアを経て東北エリアで活躍する設備工事職人

「飲みに行った親方を朝まで駐車場で待つのも見習いの仕事だった」。

そう語るのは設備工事会社・菜花空調の代表を務める菜花祐樹さん。そのキャリアは波乱万丈の一言。

修行時代の親方は今では希少な昔ながらの職人タイプで、世が世ならパワハラで大問題になり得る教育を受け、菜花さんは一人前となった。

現在、菜花空調は宮城県を拠点に、法人として9年目、創業19年目になる。社名の通り、スタートは空調工事だけだったが、事業拡大に連れて、ガス、水道、電気と工種も増えていき、今では設備全般を扱う工事会社に成長。

しかし、独立して始めた設備工事会社では、東日本大震災も経験する。

そんな困難を乗り越え、今なお現場に立ち続ける菜花さん。その原動力となっている設備工事の魅力とは?

人生初の大きな挫折の後に始めた設備工事の仕事

−−菜花さんが空調工事の仕事に就くきっかけはどういうものでしたか?

菜花祐樹(以下、菜花) 正直なところ、たまたまです。私が育った家庭は教育熱心で、学歴を大事にする家だったのですが、私は受験勉強の途中で挫折してしまいました。

一度は完全に腐ってしまいましたが、何かしなければと考え、ピザ屋さんで働き、その次にコンビニで働きました。でも、どちらもやり甲斐を感じられず、長続きしなかったです。

そんな中で、コンビニのオーナーに飲食店に連れて行ってもらった時、そこで空調設備工事の会社の社長さんと知り合って、誘ってもらいました。それが21歳の時でした。

−−それからはずっと設備工事に携わっていくことになると?

菜花 結局、誘ってもらった会社は2度目のお給料をもらう前に、潰れてしまいまして。ただ、その時に「この道で行こう」と決めて、潰れた会社で一緒だった従業員とともに東京・練馬にあった空調設備の会社さんに住み込みで仕事を覚えさせてもらいに行ったんです。

修行を終えて仙台に戻ってからは元同僚とも離れ、一人親方の下で働くことになりました。そこで大体6年ぐらい、2人で仕事をしてましたね。

−−一人親方はどのような人物だったのですか?

菜花 この親方がお金にだらしない人で「今月の給料、とりあえず5万円ね」と本来の給料よりもかなりの小額を渡された時もありました。でも、仕事に関しては見習うべきところが多かったんです。

それでも経験を積んだある時、「ずっとここにいてはダメだ」と思い至り、親方の元を離れました。

そのあと仙台で25年続いていた空調設備工事の会社に勤めたのですが、1〜2年働いた頃に倒産してしまいまして、そこで独立に踏み切った形です。

技術は見て覚え、一人前の職人に

−−見習いの時期には、どのような仕事を任されていましたか?

菜花 一人親方についていた時になりますが、特に何もやらせてもらえなかったですね。技術については、雑用をしながら「見て覚えろ」の人でした。

任されたことと言えばその親方から「奥さんと焼き鳥食べに行くから、子供を見ておいてくれ」と頼まれて世話をしたり、国分町という繁華街に飲みにいくからと、駐車場で帰りを待たされたり。しかも朝まで。それが週に3〜4日(笑)。

−−それは色んな意味で大変ですね。

菜花 全く教える人ではなかったのですが、ある時いきなり「行ってこい」と。必要なものは全て用意してあって、「エアコン2台、1日かかってもいいから済ませろ」という感じで送り出されました。

手取り足取り教えてもらったことはなかったですし、今みたいにスマホで調べられるなんていう時代でもなかったから、全部見て覚えたことを頼りにするしかありませんでしたね。

でも意外と「やろうと思ったときにどれだけ見てきたか」がその時に表れるんです。しっかり見てきた人間は、勝手に体が動きますからね。

−−感謝はしていると?

菜花 そうですね。技術はもちろん、お客様への応対、見積もりの出し方などは本当に素晴らしかった。その辺は本当に今でも感謝していますよ。だから、ルーズなところがあっても付いていくことができたんです。その人のおかげで私は、この世界で通用できるようになれたのだと思います。

今、私の部下への教育でも「ただ、突っ立って息をしているだけじゃダメだよ」と、見ることの大切は言い聞かせています。

−−菜花さんは、見習いの時から仕事を楽しめていましたか?

菜花 苦しいっていうイメージはなかったですね。覚えることだらけで、ただただ夢中でした。自分のことで精一杯でしたから、その時はまだまだお客様目線になんて立てていなかった。ただ、新しい工具を買った時は、それを使う楽しみなどはありましたけど。

−−技術を身につけてからは、楽しめるようになったと?

菜花 そこまでいけば、やっぱり仕上がりです。エアコンで言えば室外機の取り付け、配管ですね。これは素人目にもわかる違いだと思います。

今でも魅了される設備工事の魅力

−−ベテランとなられた今でも工事は楽しいですか?

菜花 現場っていうのは1現場1現場が全然違うじゃないですか。「これはキッツイな」っていう場所もあれば、「楽勝」って感じる場所があったり、事前に下見できて臨めるところもあれば、ぶっつけ本番だったり。

だから、20年仕事を続けても飽きないのでしょうね。現場には今でも職人として出ていますよ。

最近は道具を使うのが楽しみです。便利なものがたくさんあって、使うのが楽しくなっています。道具はたくさん集めていますので、もはや趣味。仕事が趣味になっていると、絶対に苦しくないというのは僕の持論にもなっています。

中には「使わなそうだけど、(個人的に)買っちゃった」っていうものもたくさんあります(笑)。おかげでメーカーさんが、新商品を出したらとりあえず私のところに見せに来るっていう流れになっていますから。

−−今一番ハマっている道具は何ですか?

菜花 ドローンです。屋上の室外機の下見、写真撮影などに利用していますね。

−−設備工事の仕事の魅力とは?

菜花 設備工事、管工事の魅力は、それぞれに違った形ができるってところだと思います。言わば1つひとつが造形物であり、作品なんです。配管にはセンスも現れるし、完成形を見て眺めるのが楽しいですよね。

同じ会社の人間でも、仕上がりに個性が出て、誰が担当したかがわかります。その差を小さくしていくことが会社の目指すべきところではあるのですけども。

私はその品質が高いレベルで保証されていれば、周囲の声が「菜花は高いよね」でもいいと思っています。「それなり」以上を提供できているのであればね。

震災を乗り越えた菜花空調のこれから

−−会社は順調に事業拡大できた?

菜花 順調と言うよりも、東北エリアは夏が短いこともあって、エアコンだけだとちょっと厳しく、ガス設備工事も始め、徐々に事業を広げていった形でした。

加えて東北の場合、3〜4代目と続く老舗の空調会社がいくつか在り、シェアも占められ、新参者の弊社のような会社は参入不可に等しいかった。取り扱う職種が増えていった背景にはそういう理由もあったんです。

−−宮城県と言えば、2011年には東日本大震災から9年、現地の状況は?

菜花 景気は悪くなっていると思います。求人募集をかけても人は来ませんし、被災後に震災特需などと呼ばれた流れも終わってしまいました。今は東京五輪の関係で、こっちから東京に出て行っている会社や職人が多いですね。

−−震災直後には、建設事業者さんが増えた?

菜花 増えていましたね。遠方から応援に来ていた会社さんは今、みんな引き上げて行かれましたし、当時新しくできた会社は結構潰れました。震災後に設立、1〜2期目は好調だったみたいですけど、続かなくてやがて倒産という流れだったようです。そういうところで残った会社も、仕事がなくて困っているようです。

弊社は震災前後に関わらず、下請けとして変わらぬ営業を続けましたので、その流れに大きく影響されることはありませんでした。言い方はあまり良くないですが、そうした一過性の需要に乗じて適当に仕事をしていた人間たちが淘汰されていったのだと思います。

――菜花さんは震災当日もお仕事をされていましたか?

菜花 3月11日当日は季節的に珍しく、雪が強く降る寒い日でした。その時は山の上の方にある現場でエアコンの工事をしていましたね。携帯の地震警報が鳴ったので一度建物から出たのですが、その時には立っていられないぐらいの揺れがありました。近くのマンションでは、吊ってある室外機がどんどん落ちてました。

ひとまずその現場を終わらせて私も避難しようと考えたのですが、次の現場の約束が入っていたので、万が一お待たせしてしまうと良くないと思い、そこへ向かいました。案の定、すでに避難されていて不在でした。

−−御社事務所も津波などの影響を受けましたか?

菜花 幸い当時の事務所はアパートの上の方の構えていたので、ギリギリ床下ぐらいの位置までの被害で済みました。ただ、500m先ぐらいのところは家ごと流されてしまっていましたね。

−−地震からしばらくは、修理などの依頼が殺到した?

菜花 電話も通じない状況でしたが、まずは「元請けさんを助けないと」と思いました。震災から2日後には協力会社が全て自然発生的にガス設備工事の元請けのところに集まっていましたね。

−−未曾有の災害を乗り越えた菜花空調はこれからどうなっていく?

菜花 売上を目標にしてもつまらないですからね。小規模の企業なりに、1つ他のライバルが追従できないようなストロングポイントを作りたいです。「真似されても、絶対に追い付けない」くらいの形にまで。

実は既に取り組み始めていて、徐々に軌道に乗り始めたところなんです。そこには資金も投入していこうと思っていますよ。

[企業情報]

社名/株式会社菜花空調

https://sustina.me/company/472

本社所在地/宮城県塩竈市千賀の台2丁目13番6号

自社請け可能/電気工事(材工) | 電気通信工事(材工) | 空気調和設備工事(材工) | 給排水・給湯・衛生設備工事(材工) | ガス配管設備工事(その他配管工事含む)(材工)

対応可能エリア/岩手県 | 宮城県 | 秋田県 | 山形県 | 福島県

 

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