職人の常識をくつがえす!採算度外視で人気防水屋が設立した「建築防水技術研修センター」とは?

お笑い養成所はあるのに、建設業29工種の学校がないのはおかしい

建設業界の市場規模は50兆円と言われる。しかし、29工種の建設技術を専門的に教える学校すらない状況だ。

そんな状況に危機感を覚え、誠真工業の宮本貴嗣社長は「一般社団法人 建築防水技術研修センター」を立ち上げた。

「建設業は高い技術が必要なのに、それを習得するにはとりあえず就職するしかない。お笑い芸人にだって養成所がある時代なのに、そんな業界っておかしいじゃないですか」と宮本社長は憤る。

“現場に出ないと仕事を覚えられない”という職人の常識をくつがえしたら、建設業の未来はどう変わるのだろうか。若手は転職しなくなるのか。

誠真工業の宮本社長に聞いてきた。

防水工事業者と建築設計事務所のギャップと大規模修繕工事

宮本 貴嗣(みやもと・たかつぐ)/株式会社誠真工業/防水工事・大規模改修工事
宮本 貴嗣(みやもと・たかつぐ)/株式会社誠真工業/防水工事・大規模改修工事

宮本さんは防水職人歴23年間の大ベテランだ。3次、4次請けの仕事をしていたが、12年前に独立して、株式会社誠真工業を立ち上げた。

もともと防水工事業者だったが、徐々に事業拡大し、大規模改修工事を1都3県で施工するようになった。

誠真工業の躍進の裏には、他社と異なる特徴が一つあった。

「ウチは防水工事だけでなく、防水設計もできます。両方できる防水会社は稀な存在なんです」。

一般的な防水工事業者は、建築設計事務所から降りてきた内容にしたがって施工を担当する。しかし、現場で施工のみの担当なので、建物の漏水の原因はわからない。

一方、建築設計事務所は漏水原因を予測することは可能だが、それに適した施工方法への理解が乏しい。

「両者の仕事にギャップが存在する中で、現場では防水工事が進んでいたりするんですね。実は、防水工事ってかなり難しいんですよ」。

誠真工業は、防水設計から施工までを扱っている会社なので、構造も理解して工法も選定できる。それが成長の原動力となった。

「独立当初は営業もやったことはなかったので、仕事もあまりなかったです。戦略なんてものはなく、現場監督から相談されたら話に乗る、ただ目の前にある仕事をこなす、それの繰り返しです。

そうするうちに、スタッフも増えて、いまの誠真工業ができていきました」。

修繕工事会社の多くは塗装屋から発展した

防水工事の学校を始めた理由を語る防水工事の株式会社誠真工業代表・宮本貴嗣さん

誠真工業は、大規模修繕工事にも事業拡大している。

今、日本で大規模修繕工事を手掛けている会社の多くは「塗装屋から発展している会社」だが、そのような塗装畑の会社は結局、修繕工事において防水工事の専門家の仕事に頼らないといけない。

その点、塗装ではなく防水畑で育ってきた誠真工業は、防水工事会社としての長所を生かして、大規模修繕工事の現場でも存在感を放つことに成功している。

「大規模改修工事でも施工前に設計は必要ですが、その前に外壁劣化診断で防水層などを調べて、タイルを何枚張り替えなければいけない、建物の何が劣化しているといったことを調べます。

その結果、工事費は総額1億円ですと言って、お客様が“わかりました”と言ってくれる場合は問題ないのですが、“5,000万円でお願いしたい”と言われる場合もあります。誠真工業なら、それに対応できるんです。

どうして可能かと言うと、誠真工業という会社のベースが防水屋だからです。外壁劣化診断の結果、防水層などに欠損があれば早めにやらなければいけない、あれは次の時でもいいといった修繕箇所の優先順位が付けられる。そうしたマネジメントは、かなり難しいんです」。

設計できる会社がそのまま施工もやるという信頼感は、他社では得られない価値となっている。

防水工事の職人向けに建築防水技術研修センターを設立

防水材についての研修(写真提供/株式会社誠真工業)

2018年、宮本社長は会社の採算度外視で、『一般社団法人 建築防水技術研修センター』を設立した。

講師陣は、誠真工業スタッフや会員企業の防水工事会社で働くベテラン技能士たち。会員企業の未経験者、新人向けに、各企業の社内研修だけでは伝承しにくい技術など、さまざまなカリキュラムを組んでいる。

キャリア20年以上の職人たちから、数日間まるまる技術を学べる機会は、職人の世界ではめったにないことだという。

「防水材メーカーも賛助会員になっているので、実際の材料を使った実技も学べます。ゆくゆくは学校法人にしたいと考えています」。

現場OJTより前にすべき、防水工事職人の教育

ウレタン防水技術研修の様子(写真提供/株式会社誠真工業)

宮本社長が建築防水技術研修センターを設立した背景には、現場レベルでの深刻な職人不足の問題がある。

現在、建築工事の現場では、団塊世代の職人が大量に引退し、若手職人が減ってきている。

「建築業界には若手を引き込む力と、教える力が足りません。それがますます職人不足に拍車をかけている状況です。

僕は高校で外部講師をしていますが、建設業に興味をもった生徒たちから“どうすれば建設の仕事に就けますか?”と質問されたとき、“とりあえずどこかに就職してください”としか説明できなかった。高度な技術が必要なのに、学生からしたら、そんな業界っておかしいじゃないですか?

美容師になりたければ美容師専門学校に行き、エンジニアになりたい人はエンジニアの学校に行く。アニメ・声優などの学校もある。お笑いにだって養成所がある。

でも、建設業界は市場規模50兆円とも言われているのに、29工種の建設技術を教える専門学校すら無い状況です。だからこそ学校がないのであれば、作ろうと考えて行動に移しました。

現状、建築業界には未経験者が現場に出て、OJTで仕事を覚える形しかありません。そのため、若者にとっては単純な肉体労働になってしまい、仕事のやりがいや魅力が伝わらないうちに転職してしまいます。

だから、そんなおかしな状態を逆転させて、育成してから現場に出す形を当たり前にしていきたいんです」。

防水施工技能士と10年保証のリスク

数年後の展望を語る防水工事の株式会社誠真工業代表・宮本貴嗣さん

防水工事業界には、建設業の中でも他業種とは異なる事情もある。

「防水業界が特殊なのは10年保証を付けるところです。国内の製品・サービスで10年保証を付けてるものってありますか?めったにありませんよね。10年間、建物を雨漏りから守る耐久性を保証するのは相当大変なことなんです」。

10年保証は設計・施工業者にとってリスクが大きい。自社で外壁劣化診断しようが、防水設計しようが、現場で施工するスタッフがどれだけ技術を理解しているかが耐久性の重要な鍵となる。

しかも、防水に関する技能士(防水施工技能士)の資格の種類は、ウレタン防水、アスファルト防水、FRP防水など、工法ごとに9つもあるため「一人で全部できます」というのは現実的に不可能であり、専門性が高い工事だ。

「だからこそ、若い人たちに防水工事の技術を伝えていくには、しっかりと教育の場とそのプロセスを用意してあげないといけない。自分がやっていることの根拠付けをしてあげなければいけないと考えたんです」。

建築防水技術研修センターの授業で教えるのは、防水工事の施工技術だけではない。仕事でお金を稼ぐための教育も行なう。

「例えば、僕だってレシピと時間さえあれば、フランス料理の高級メニューは作れるんです。でもそれはプロの仕事とは呼べません。効率よく作れたり、大量に作れたり、応用的に料理できようになったり、つまり、生産性を上げるためのテクニックや、技術をお金に変える術を知って初めてプロになれます。

こういった根底部分の教育は、防水工事に限らず建設業全般で欠落していると思います。そんな下地がないからこそ、若い人たちは職人の仕事で夢も描けないし、ちょっとした困難や面白くないことがあっただけで辞めたり、転職してしまうんです。

建築防水技術研修センターでは、生徒を怒ることはしません。教わる段階で、間違えたら怒られるのはおかしいですよね。

冷静に考えれば当然の話ですけど、建築業界ではまだ、そうじゃないところが多いんです。学んだことを生かせずに、怒られることがあるのはわかりますが」。

防水工事の職人教育と建設業のイメージ向上

宮本社長は約23年間、防水工事の仕事に人生を費やしてきたが、「あと9年でこの業界から引退することを決めている」。

「今まで大勢の人たちから、現場でいろんなことを教えてもらって、育ててもらってきました。今度は僕がその恩返しを防水業界にする番なのかなと。

地域社会からの建設業のイメージ向上に貢献したり、建築防水技術研修センターを学校法人の専門学校にしたりすることもそうです。

建築防水技術研修センターで学んだ若い職人たちが30代を迎えたころぐらいに、“しっかり稼げています!”という姿を見届けて、僕自身も引退していければ良いなと思っています」。

誠真工業は今、自社の職人を100人抱えることを目指している。

[企業情報]

社名/株式会社誠真工業

https://sustina.me/company/645784

本社所在地/千葉県八千代市勝田台南2-10-44

対応可能職種/シーリング工事(材工)、防水工事(材工)、大規模改修工事

対応可能エリア/埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県

 

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